サブスクリプションへのきちんとした認識がないと
ビジネスで「ボタンの掛け違い」が起こってしまう
「サブスクリプション=定量課金」は表層的
まずはサブスクリプション総合研究所についてご紹介ください。
小澤 世の中で「サブスクリプション」という言葉が流行っていますが、本来の意味でのサブスクリプションとは大きなギャップがあるように感じています。したがってサブスクリプション総合研究所は、サブスクリプションに対する正しい理解を広めて啓蒙することで、特にB to Bの領域においてビジネスを展開している方々が、サブスクリプションに前向きに取り組んでいく雰囲気を醸成していきたいと考えています。また、私たちは「SMARTサブスクリプション」と呼んでいるのですが、今後のビジネスを支える次世代のサブスクリプションのあり方を提唱していきたいと考えています。
サブスクリプションに対する認識のギャップとはどのようなものですか。
小澤 サブスクリプションについて、さまざまなメディアでも「料金の支払い方」のみが注目されています。例えば「コーヒー飲み放題」や「音楽聴き放題」など、定量課金こそがサブスクリプションであるかのような捉え方をしています。
私たちもこれを決して否定はしませんが、それだけがサブスクリプションではありません。シェアリング・エコノミーやサーキュラー・エコノミーといった新たな経済の考え方が広がり、一方でIoTやAIといったデジタル・テクノロジーが急速に進化。ビジネスそのものが大きく変化しようとしている中で、まさに次世代のサブスクリプションが登場しているのです。表層的な「〇〇放題」のサブスクリプションだけを眺めていたのでは、この大きな時代の流れをキャッチアップすることはできません。
宮崎 琢磨
サブスクリプション総合研究所
代表取締役社長
大学在学時よりフリーランスのプログラマとして活動。1998年ソニー入社。パーソナルコンピュータ・PDA・映像・音楽・ネットワーク・ソフトウェアの領域を中心に商品企画・事業企画に従事。2005年ライセンスオンラインに参加。2006年ビープラッツを設立し、取締役CTOに就任。取締役CFOを経て、2018年ビープラッツが東京証券取引所マザーズに株式を公開。同年より取締役副社長(現職)。2019年サブスクリプション総合研究所を設立し、代表取締役社長に就任(現職)。東京大学卒、1972年生。
商取引の規模は圧倒的にB to Bのほうが大きい
宮崎 そもそもサブスクリプションの語義範囲は非常に広大であるため、つかみどころがなく、見えづらい部分があるのかもしれません。その意味では、もう少し時間が必要なのも事実です。例えば欧米のソフトウェア業界は月額課金制のウイルススキャンといったビジネスモデルを2000年代の初めから打ち出しており、その頃からすでにサブスクリプションという言葉を使ってきました。これに対して、日本でサブスクリプションという言葉が流行し、多くの人が注目し始めたのは2018年ですから20年近い開きがあります。
日本企業のサブスクリプションへの取り組みは、欧米から相当遅れていることを理解すべきなのでしょうか。
宮崎 その質問に対する答は「NO」で、単に言葉の輸入が遅かっただけにすぎません。ただ、言葉の認識にギャップを抱えたままでは、ビジネスでも「ボタンの掛け違い」が起こってしまうため、そこが問題だと思っています。
繰り返しますがサブスクリプションの語義範囲は非常に広く、顧客との継続的な関係性が担保されていれば全部サブスクリプションです。「決済」や「会員制」、「eコマース」といった言葉と同等の語義範囲を持っているといって過言ではありません。だとすれば本来は、さまざまな業種・業態、商材、地域といったジャンルごとに最適化されたサブスクリプションがあって然るべきなのに、現時点ではそういう動きにはなっていません。
そういった議論がないことで、どんなことを危惧していますか。
宮崎 表層的なほんの一部の取り組みに失敗しただけで、サブスクリプションが持っている広範な可能性を否定してしまうおそれがあります。また、日本企業の商取引の規模を見ると、B to Cよりも圧倒的にB to Bのほうが大きいのですが、ここがサブスクリプションのターゲットとして設定されないと、日本企業は大きなチャンスを逃しかねません。
小澤 いち早くサブスクリプションに取り組まないといけないという過剰な意識に、多くの日本企業がとらわれているような気がします。サブスクリプションの本質を理解できていないのに、他社よりも先にやらないといけない、でも何から手を付けたらいいのかといった、ある種の強迫観念のようなものがあります。まず、そこから解きほぐしていく必要があります。
小澤 秀治
サブスクリプション総合研究所
取締役
1985年第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。2000年みずほ証券に出向、引受業務、投資銀行業務に従事し、重工業・機械セクターを中心とした製造業を担当。2013年東京センチュリーリース(現東京センチュリー)に転籍、2016年執行役員、2019年常務執行役員。ビープラッツとの資本業務提携締結によりサブスクリプション事業の立ち上げを行い、推進体制を構築。2019年サブスクリプション総合研究所取締役に就任。早稲田大学卒、日本証券アナリスト協会検定会員、1961年生。
日本独自の企業文化や商習慣を生かすべき
宮崎 確かに、そのサブスクリプションは流通業には向いているけれど、製造業には向いていないといった判断ができるレベルまで理解が深まらないと、「なぜ自社ではドーナツの食べ放題ができないのか」といった不毛な議論で立ち止まってしまいます。
小澤 そうなのです。他社がこんなサブスクリプションを始めたから自社も同じものを目指すのではなく、自分たちの製品を介して「どういった新しいサービスやソリューションを提供できるのか」「それは顧客のニーズに合致しているものなのか」「経済合理性はあるのか」といったことを熟慮する必要があります。また、それによっておのずとサブスクリプションの適用範囲は広がっていくと思います。
宮崎 まさに小澤さんのおっしゃるとおりで、そもそも自分たちはどんな会社で、どんなビジネスを手がけ、どのように成長してきたのかという、企業としての成り立ちやフィロソフィーから見つめ直す必要があります。
それはある意味で、日本企業が長い歴史の中で培ってきた強みを再検証することに近いのかもしれません。戦後の高度成長期に日本企業が急速な発展を遂げることができたのは、80%近い内需依存率の市場を持っていたことが背景にあります。そうした中で突出した力を持つに至った企業がグローバルに事業を展開し、市場を席捲し、存在感を発揮してきたのです。そして、それを支えてきたのが日本独自の企業文化であり商習慣です。
そうした日本企業の強みは、ともすればグローバル・スタンダードが尊重される時代の中でガラパゴス的と否定されることも少なくありません。しかし、日本企業ならではの特性や個性が頑として存在している以上、それを無視したサブスクリプションはおそらくありえないはずです。逆に無視してサブスクリプションをやろうとすると、「立派な建物があるのに、いったん更地にしてから新しいビルを建てる」のと同じぐらいもったいない話になってしまいます。
小澤 従来から日本企業が持っている根幹的な強みとは、製品や商材を提供する顧客の声に応え続けてきた歴史にあるように思います。例えば工作機械メーカーに注目すると、同じ機種を延々と作り続けてきたわけではなく、顧客が作る製品の高性能化や小型化が進むと、それに応じて工作機械にも一段と高い加工精度が求められるために、常に顧客からの要望に耳を傾け、主力製品を大きく改良、もしくは新製品を開発しています。工作機械メーカーと顧客が連綿とつながってきたからこそ、それが可能だったわけですが、一方で結果的には製品を販売するところでビジネスは終わっています。
これはあまりにも惜しいと言わざるを得ず、そこにもう一工夫を凝らすことで、宮崎さんのおっしゃるような、それぞれの企業の強みを生かした新たなサービスやソリューションを提供することが可能となります。まさにその鍵を握っているのがサブスクリプションであり、私たちサブスクリプション総合研究所は最先端のデジタル・テクノロジーも活用した方法論を確立し、新たなステージに向かおうとする企業を後押ししていきます。
「SAMRTサブスクリプション」内容紹介
サブスクリプションで日本企業の可能性は広がる
SMARTサブスクリプション
~第3世代サブスクリプションが
B to Bに革命を起こす!~
著者:宮崎琢磨 藤田健治 小澤秀治
(サブスクリプション総合研究所)
発行:東洋経済新報社
いま、ビジネスシーンでもっともホットなキーワードの一つ。それがサブスクリプションだ。
サブスクリプションについて、さまざまなメディアでは「料金の支払い方」のみが注目されている。例えば「コーヒー飲み放題」や「音楽聞き放題」など、定額課金こそがサブスクリプションであるかのような捉え方がされているが、これはサブスクリプションの一面をとらえているに過ぎない。
シェアリング・エコノミーやサーキュラー・エコノミーといった新たな経済の考え方が広がり、一方でIoTやAIといったデジタル・テクノロジーが急速に進化。ビジネスそのものが大きく変化しようとしている中で、まさに次世代のサブスクリプションが登場している。
本書では、サブスクリプションの本質を「顧客との継続的な関係を担保する」ことと定義し、その進化を第1世代から第3世代に分けてその特徴を捉え、最新の第3世代サブスクリプションを「S・M・A・R・Tサブスクリプション」として分析する。同時にビジネスの革新性からもサブスクリプションを3つのグループに分類し、サブスクリプションこそがビジネスモデルの変革をもたらしうる、ビジネス革命を起こす可能性があるものであることを指摘する。
表層的な「〇〇放題」のサブスクリプションだけを眺めていたのでは、この大きな時代の流れを捉えることはできない。サブスクリプションは「決済」や「会員制」、「eコマース」といった言葉と同等の広い語義範囲を持っていると考えられ、よって、さまざまな業種・業態、商材、地域といったジャンルごとに最適化されたサブスクリプションがあって然るべきだが、現時点ではそのような議論はあまりなされていない。
さまざまなサブスクリプションが出現し、マーケットが急拡大しているなか、日本のBtoBの製造業もその主役となりえる可能性を秘めている。日本の製造業の多くはいま、「モノ」を中心とした売り切り型のビジネスモデルから、顧客に新たな体験価値を提供し継続的に対価を得る「コト」を中心としたビジネスモデルへと軸足を移そうとしている。このとき、有効な「解」となるのがサブスクリプションだ。
本書では、「SMARTサブスクリプション」をいち早く展開している日本企業の事例も紹介しながら、その具体的な進め方を提言していく。サブスクリプションの新たな指南書の誕生である。
【本書の主な内容】
プロローグ サブスクリプションがビジネス革命を起こす
第1章 表層としてのサブスクリプション
第2章 サブスクリプションはビジネス革命そのものだ
第3章 これが第3世代のサブスクリプションだ!
第4章 GAFAコンプレックスは失敗の元
第5章 日本企業にこそチャンスがある
第6章 事例編
コニカミノルタジャパン/「KINTO」/ソラコム/東京センチュリー
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